血圧を下げるためのヒント

高血圧症は全国で推定約3,000万人存在します。なんと、50歳以上では2人に1人が高血圧症です。長期間にわたり高血圧症を放置すると心臓・血管に強い負担がかかり、動脈硬化がさらに進行して、心筋梗塞、脳出血・脳梗塞など心臓・脳血管系の病気を引き起こします。そのような病気になった結果、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を低下させます。65歳以上で寝たきりの人は全国でおおよそ32万人いますが、そのうち38%が、脳卒中による機能障害によるものです。日本人の平均余命は女87歳、男78歳と世界一の長寿国ですが、晩年の6~7年が寝たきりという人も少なくはありません。

発症早期より高血圧症に気が付き、生活習慣の是正や降圧薬治療による血圧コントロールを実施すると明らかに心臓・脳血管系の病気を予防することができます(薬物療法の開始時期については、後で述べます)。

高血圧は、あなただけの問題ではなく家族全員の問題としてとらえることが大事です。なぜならば、あなたの生活・食習慣が、高血圧を引き起こしその体質が子供に引き継がれていくからです。生来、親と同じ食事を摂っている子供の嗜好が、親に似てくるのは当然のことです。

さて、働き盛り中年期、そして子育て、住宅ローンも終わり幸せになるべき老後のクオリティ・オブ・ライフを左右する高血圧症についてご説明したいと思います。

高血圧の基準は?

測定方法によって以下の3種類があります。

  • (1)外来受診時の血圧:高血圧症の診断治療の基準になります。血圧測定には水銀柱を使ったアネロイド血圧計を使用します。単位は水銀(Hg)柱の高さを意味するmmHgです。
  • (2)24時間血圧:24時間携帯血圧計により測定した血圧で早朝や夜間の血圧も知ることができます。
  • (3)家庭血圧:家庭血圧計により測定した値であり、診断治療の参考にします。

高血圧症というのは外来受診時での血圧(診察時血圧)を、日をかえて3回以上測定し、概ね最高血圧140mmHg以上、あるいは最低血圧90mmHg以上の場合をいいます。

家庭血圧では、わが国の日本高血圧学会の家庭血圧測定ガイドラインによると確実な高血圧症が135/85mmHg以上、正常血圧が125/80mmHg未満、確実な正常血圧125/75mmHg未満としています。家庭血圧計で135/85mmHg以上のことが多ければ高血圧症の疑いがありクリニックの受診をお勧めします。“家庭内血圧は、一定しない、測るごとに低下していくので、どの値を採用していいかわからない”と言う方がいらっしゃいます。測定は3度までで止めれば迷いません(何回も測りなおし、ご自信が納得する低い値を求めるのではなく、実際の値を知ることが大事です)。最初の測定時の値も重要であるので、その値を血圧手帳もしくはメモ書きとして記入してご来院ください(緊張している時の測定時です。測りなおし一番低い値も記入するのが良いといいます)。測定する時間は、朝起床後の洗面・トイレを終えたで朝食前、それに一番リラックスしている就寝前一時間前がいいでしょう。

24時間血圧計による高血圧の該当値は、日中135/85mmHg以上、睡眠時120/70mmHg以上とされています。日中での高血圧の定義は家庭血圧と同様です。この値はあくまで参考値ですが、後で述べる夜間睡眠時血圧を知ることができます。

異なる測定法における高血圧基準

高血圧の原因は?

高血圧の90%は原因不明の“本態性高血圧”(要するに加齢による全身の動脈硬化が原因)です。そのうち約40%の人が、家族的素因に関係しています。すなわち、“父あるいは母に高血圧症があると、その子供も高血圧症になりやすい”ということです。その他、50%以上の人が食事を含めたライフスタイル・生活習慣などに関係しています。残りの10~5%の人は腎性高血圧(糸球体腎炎あるいは腎症という腎臓病の後遺症が原因)か、腎動脈狭窄が原因で昇圧物質(レニン・アンジオテンシン)が分泌された結果生じる腎血管性高血圧か、副腎の腫瘍、甲状腺など内分泌ホルモン異常によるものです。 これら、原因が明らかな高血圧のことを“2次性高血圧”と言います。

何度かの血圧測定の後、高血圧と診断されたら、本態性高血圧か2次性高血圧かどうかを検査します。特に35歳以下の方の高血圧(若年性高血圧と言います)では、両親のいずれかが若い時から高血圧があり、高血圧の関係する心筋梗塞、脳卒中を起こしていないか、内分泌ホルモン異常によるものか、上で述べたように腎血管性高血圧か・・・などの諸検査をします。原因が明らかでなければ本態性高血圧症という診断になります。もう一度強調しますが、高血圧症になる素因は、遺伝すると考えられています。両親が高血圧症の場合は子供の半数が高血圧になり、片親が高血圧の場合約4分の1が高血圧なるとされていますので、両親や兄弟姉妹に高血圧症の人がいる場合にのは、折を見てクリニックで血圧を測ってもらい(あるいは市販されている家庭血圧計で、ご自身で血圧を測定し)高血圧の早期発見に努めてください。 

最大血圧と最小血圧がありますが、どういう意味があるのですか?

血圧は心臓から拍出される血液量と抹消血管の抵抗によって決まります。心臓が収縮し血液が押し出され血管に当たる圧が最高血圧(収縮期血圧)、心臓が拡張し血液が血管に充満された状態の圧が最低血圧(拡張期血圧)です。心臓が上腕にマンシェットという幅15cmの布帯を巻いて、それを加圧していきます。上腕動脈に聴診器を当てて、予想血圧の20~30mmHg以上までマンシェットを加圧していきます。ある程度まで加圧したら加圧器のネジを緩めゆっくり減圧していきます。上腕動脈に当てた聴診器から血管音(ドッ、ドッ、ドッという音)が聞こえてくる時点で水銀柱が示す圧を最高血圧、音が聞こえなくなる時点で水銀柱が示す圧を最低血圧といいます。その音をコロトコフ音と言います。

アメリカ東部のフラミンガム市で24年間の住民追跡調査が行われました(フラミンガム研究といい、世界で最も十重要な研究で、現在も継続しています)。それによりますと、収縮期血圧は、年齢とともに徐々に上昇し、60歳をすぎるとさらに、その上昇が急峻になる傾向がありました。しかし、拡張期血圧は、大体60歳から65歳を境に下がって行きました。結果的に70歳辺りを過ぎた高齢者になりますと、上と下の血圧の差が大きい、いわゆる脈圧が大きい方が増加しました。この追跡調査で判ったことは数多くありますが、その一つ、“若い方では、拡張血圧が高く、脈圧が小さいと心筋梗塞のリスクが大であり、75歳以上の高齢者では収縮血圧の高い方が危険で、次いで予後不良なのは脈圧の大きな例でした。

わが国を代表する九州、久山(ヒサヤマ)町の住民を対象にした研究においても、60歳以上では収縮期血圧が140mmHg以上になると、脳心血管合併症の発症率が増すというデータを発表されています。80歳以上では、180mmHg以上の血圧でリスクが増大するとのデータもありますが、決して80歳以上では180mmHgまで、高血圧を放置してもいいという意味ではありません。高齢者でもきちっと最高血圧を140mmHg以下まで下げるべきです。一方、日本のデータでは、75歳以上では140mmHg以下まで積極的に降圧を試みた群と、140~150mmHgまでの降圧で許容した群では、予後が変わらないとのデータも出されています。しかし、大規模研究ではないため、広く認知されるに至っておりません。

脈圧の大きい症例では収縮期血圧と下げていくと、拡張期血圧が下がり過ぎる場合があります。ある研究の結果によりますと、拡張血圧が60mmHg以下になりますと、心血管リスクが上がっていくようです(J型現象と呼びます)。虚血性心疾患(心筋梗塞)では、拡張期圧が70mmHg以下になる方で、リスク(再梗塞)の頻度が増大するとも言われています。しかし、外来では通常最低血圧は気にする必要はありません。

では、降圧の目標は、どの程度なのでしょうか?との問いに、どの年齢であれ収縮期(最大)血圧は可能な限り140mmHg未満まで下げるべきですと高血圧ガイドラインは答えています。

※CKDとは慢性腎臓病のことです。

降圧目標

高血圧には日内変動のタイプがあります

24時間血圧計による夜間血圧測定によって高血圧には日内変動のタイプがあることがわかりました。昼間の血圧より夜間血圧が高い、もしくは低下しない群(non-dipper;ノン・ディッパーと言います)は、夜間血圧が低下する群(dipper;ディッパーと言います)に比べて約4倍、脳卒中・心筋梗塞の発症率が高いのです。次いで起床してから(あるいは起床前から)血圧が急に高くなるモーニング・サージと言われるタイプも危険なグループです。朝方高血圧を示す人の3分の2は起床前から血圧が高いタイプだといわれています。24時間血圧計がなくても、家庭内血圧をこまめに測定することで、日内変動のタイプがわかりますので、高血圧治療中の人は家庭内血圧計を利用するよう心かけてください。

塩分のとり過ぎと高血圧とは関係ありますか?

日本人は、昔は1日平均16gの程度の食塩を摂取していました。その当時は高血圧症が多く、脳卒中になる人がたくさんいました(脳出血が、脳梗塞の4~5倍多かった時代の話です)。最近では、食塩摂取の減少によって、脳卒中の頻度は激減しています。それでも一日10gから12gと、いまだに欧米人に比較して食塩を多く摂取しています。ヒトが摂取する食塩の主成分はナトリウムで、ヒトが海から陸上生活に進化する過程で、体内にナトリウムを保持するため腎臓からのナトリウムの流失を防ぎ、海水と似た血液の環境を維持するシステムをつくりあげましたが(レニン-アンジオテンシン・システムと言います)、陸上での生活で、塩分摂取の増加にともない高血圧という病気を生じるようになりました。すなわち、海中より、少ない塩分しか摂取できない陸上で、どうにか生存できる体のシステムを持ったヒトが、豊富な塩分環境で生活することはかえって自分で自分の首を絞めているということになります(それにしても塩分の多い食事は、ごはんに相性が良く、おいしいので塩分制限はほんと難しいですね)。最近は、ナトリウム塩ではなくカリウム塩を摂取するように勧められております。

日本人の高血圧の3~4割の方は食塩をとりすぎると血圧が上昇し、減塩で血圧が低下する食塩感受性高血圧であり、他は食塩の増減でも血圧の変化の少ない食塩非感受性高血圧ということが分かっています。この体質は遺伝するといわれています。

食塩感受性高血圧の人は夜間高血圧になり易く、心臓肥大をもたらし、微量蛋白尿などの腎臓障害が生じ易く、脳卒中・心筋梗塞の発生が食塩非感受性高血圧の方に比較して倍になるとも報告されています。いずれにせよ、高齢になると食塩感受性が高まると言われています。また、食塩をとりすぎると体内水分量も増加し降圧薬も効きにくくなりますので塩分制限は絶対必要であることを強調したいと思います。

生活習慣の是正による高血圧治療

初診時の高血圧管理計画を以下の表で示します。

高血圧管理計画

まず、長く続けてダイエットと運動を行うことが最も重要です。

1)ダイエットと減塩:摂取カロリーを〔標準体重(身長-100×0.9)〕×22~25カロリーに制限します。カロリー制限による体重減少は、降圧効果をもたらします。脂肪を制限し、蛋白質は十分に取る必要があります。 肥満の解消を根気よくします。目標体重は22×身長(m)×身長(m)です。体重は朝おきてトイレに行った直後が基礎体重です。まとめ食い(朝食抜き)、夜食、間食、早食い、やけ食い、気晴らし食いなどは、肥満を来しやすいのです。 ゆっくりよくかんで、食事を楽しむようにしましょう。 アルコールは、エタノール換算で男性20-30ml、女性10-20ml以下にします。この量は、缶ビール一本(350ml)、ウイスキーダブル一杯、日本酒一合(180ml)、焼酎半合弱が相当します。減塩は一日6g以下を目指します。漬物を避け、卓上塩をかけない(できるならカリウム塩にする)、醤油を減塩にする低塩にするといった工夫も必要です。多くの包装食品はNa表示なので、換算式(Na量[g]×25=食塩量[g]を参考してください。塩分の多いインスタント食品、加工食品を控えてください。野菜、果物を積極的に摂取してください(カリウムが多く含まれています)。カリウム・イオンの摂取は、体内からナトリウム・イオンを追い出すように働きます。ただし、腎臓機能障害の方は、カリウムの摂取は、害ですので、この点は専門医に相談していただきたく思います。

また、我々日本人が大好きの醤油には塩分が豊富です。最近では減塩からさらに低塩醤油が開発されており、塩分コントロールも、その気になればできるようになりました。ただ、低塩醤油は、塩分が少ないので浸透圧が低く細菌が繁殖しやすいので保存期間が短いですので、小パックでの使いきりの利用となります。この低塩醤油はすでに流通しておりますので、ご活用ください(ナリス健康醤油をお勧めします)。

2)運動療法: 中程度の運動(壮年者では1分間の脈拍が138-(年齢÷2)程度になるような運動)を毎日最低30分、3~6回/週おこなうとよいでしょう。運動、ダイエットによって血圧のみならず血糖、脂質、血圧にも好影響をもたらします。毎日、30分以上を目標に、歩け、歩け・・・を実践してください。3Kgの体重減少で降圧の効果が出てきます。ただし、高血圧症で治療開始初期は危険ですので運動を避けてください。まずは、生活習慣の改善から始めることです。ただし、160mmHg以上続く方では、直ちに降圧薬剤療法を開始することもあります。

3)その他の生活習慣:入浴に関しては室温20度C以上、湯温40度C以下にしてください。 生活習慣の修正項目

薬物療法は、どうようにしますか?

心臓病、糖尿病、腎臓病を合併しているかどうかで使う薬も異なります。

血圧を調節するメカニズムは複雑です。また、1種類の薬だけでは使用量が増え、副作用が起こりやすいので、高血圧症の治療には作用機序の違う薬を組み合わせて使うことが多くなります。一種類の薬で140/90mmHg以下血圧にコントロールできるのは40%程度です。

降圧剤とは心臓からの血液量を減らすか、血管を広げるかして高い血 圧を下げる薬です。 まず、心臓が1回に送り出す血液量(心拍出量)を減らすβ遮断薬や利尿薬があります。 神経末端から分泌されるノルアドレナリンという化学物質は、β受容体に結合して多彩な作 用を起こします。特に心臓に多く分布するβ1受容体は、ノルアドレナリンが結合すると、 心拍数が増加します。この結合を妨害するのがβ遮断薬です。

一方、末梢血管を拡張させることで血圧を下げる薬もあります。体内で最大の昇圧物質といわれるアンギオテンシンという物質を作る酵素(ACE)の働きを妨害して、血圧を下げるACE阻害薬、またアンギオテンシンが組織に働く部位(レセプターと言います)に結合するのをブロックするアンジオテンシン・レセプター・ブロッカー(ARB)血管の筋肉の収縮にかかわるカルシウム・イオンの血管壁の平滑筋細胞への流入を防ぎ、血管をゆるめるカルシウム拮抗薬、末梢血管や神経末端にあるα受容体 (血管収縮に関わる)を妨害するα遮断薬などがあります。心臓病、糖尿病、腎臓病を合併しているかどうかで使う薬も異なります。最近報告されたALLHATという最大規模の臨床研究によると降圧効果そのものが心血管障害を抑制する重要な要素であり、合併症のない人ではいずれの降圧薬を使用しようと降圧度そのものが生命予後の改善を約束するものであるであることがわかりました。しかし、合併症の有無、その種類によって予後の改善度が異なるので、この点については循環器専門医に相談してください。

2剤の併用

 服薬にあたっては、24時間の血圧、家庭での血圧(朝起床後朝食前と夕食後就寝前)を知る事が大事です。家庭では正常血圧だが、診察室では10~20mmHg血圧が高いという白衣高血(white-coat hypertension)と言うのは有名ですが、一方仮面高血圧というのもあります。 これは、診察室では正常だけれども、夜間血圧が高いことです。白衣正常血圧(Reversed white coat hypertension)、逆白衣高血圧などの名前で呼ばれていて、その危険性が指摘されています。

おわりに

長寿社会を丈夫な体で生き抜くコツは、まず血圧のコントロールすることです。日本人の死因の第一位は悪性新生物(ガン),第二位は心筋梗塞など虚血性心臓病,第三位は脳卒中(脳出血,脳梗塞)です.働き盛りの多くの成人が健康診断を受けていますが,その目的はガンの早期発見です.しかし,考えてみますと高血圧のコントロールで日本人の死因の60%を占める 心血管障害を予防できる、発症時期を遅らせることができるなんてすばらしいことではありませんか。読者のみなさんも、今日から血圧のことに関心を持ってください。