心房細動に注意して

日本は世界一の長寿国ですが、人生の最終章で寝たきりという人も少なくはありません。その原因の大部分は脳卒中(脳梗塞と脳出血)による、痴呆、身体麻痺によるものです。脳梗塞の三分の一は心房細動に由来する心臓性脳塞栓です。血栓(血のかたまり)が心臓内かその付近で形成され流れ着いて脳血管を閉塞するのを脳塞栓、脳血管内で形成した血栓が、そこで結果脳血管を閉塞するのが脳血栓といいます。両者をあわせて脳梗塞といいます。

心房細動とはどういうものですか?

心房細動とは、洞結節以外の心房筋自体から1分間に約300~600/分の頻度で不規則な電気刺激が発生し、心房全体が細かくふるえ、心房全体のまとまった収縮と弛緩がなくなる不整脈です。

心房細動は、当初は自然に起こり自然に停止します。(数分から数時間、さらに数日続くことがありますが大部分の人は数時間続くと動悸がする息切れがするといって病院を訪ねます)。一過性心房細動と呼ばれるものです。一過性心房細動を放置しておくとやがて3~5年も経過すると固定性心房細動になっていきます。人によっては繰り返す一過性心房細動を放置しているうちに、無症状になってしまい、固定性心房細動に移行したことも気がつきません。

心房細動になると、なぜいけないのでしょうか?

心房細動になると、心臓から全身に送られる血液量(心拍出量)が低下します。心房細動のために心房収縮がなくなり(もぐもぐと心房が動いているだけで、血液はよどんでいます)、拡張期に心房から心室が十分血液で満たされなくなります。その結果、心室のポンプ機能により拍出される心臓から全身に送り出される血液量は洞調律の時に比較し約2割減少します。この、現象を補おうと心房細動では心房から心室への伝導がさらに多くなり心臓の動く回数が多くなります(頻脈と言います)。頻脈になるとポンプとしての心臓の働きがさらに低下し、心拍出量が低下し心不全になります。通常、成人では、特に心臓に病気を持たない元気な人でも、毎分120~130以上の頻脈では息切れや胸苦しさなどの症状を訴えます。頻拍が何日も続くと心臓の機能が正常と思われる人でも心不全になります(頻拍誘発性心筋症)といいます。

心房細動では心臓のポンプとしての働きが低下する以外にも、もう一つ大きな問題があります。左房にはその左端に左心耳という、“とんがりコーン”のような出っ張った場所があります。心房細動になると心房の収縮と弛緩がなくなるため、心房内の内圧が高まり、左房(特に左心耳)内の血液に「よどみ」が生じます。特に左心耳内は、血液の「よどみ」により血のかたまり(血栓)ができやすい場所です。

 左心耳に形成された血栓は、時々流れ出しまた形成されるということを繰り返します。困ったことに、その血栓は往々にして脳血管の方に飛ぶように流れていきます。そして脳血管に流れ着いた結果は脳塞栓の発生です。左心房が拡大するほど、左心耳内の血液のよどみが強い人ほど、脳梗塞が多く発生します。左心房の拡大(最大径で40mm以上)、「左心耳内の血液のよどみ」は心臓エコー検査で容易に知ることができます。

 心房細動の人で脳CT検査やMRI検査を行うと、ほとんどの方で多発性の脳梗塞を認めます。心房細動に伴う脳梗塞は脳血栓による脳梗塞よりも障害される脳の範囲が広く、重症例が多いとされています。 なぜなら、心臓に形成される血栓は比較的大きいので大きな血管に詰まりやすいからです。

心房細動は、どのくらい頻度で生じるのですか

心房細動は高齢者では、よく見かける不整脈です。一般に言えることは、心臓の負担が増えると心房細動になりやすくなります。また、加齢にともなって増加します。その頻度は対象となる調査群でばらつきがあり正確には分かりませんが、ある調査では60歳以上の人の1%、70歳以上の人の5%、80歳を超えると10%近くの人に心房細動が認められます。男性は女性よりも多く発生します。高血圧、虚血性心疾患(心筋梗塞)、心不全があると心房細動の頻度は著しく増加します。

心房細動があると脳梗塞のリスクはどれくらい高くなるのですか?

過去に心血管系の病気をやったことのある人が心房細動を生じると、脳梗塞の危険性が高まります。心房細動を合併した僧帽弁狭窄症では、年間4-6%が動脈塞栓を起こします。 心臓弁膜症のない心房細動でも過去に一過性脳虚血発作や脳梗塞をやったことがある人では22.5倍、心不全または心筋梗塞があると3倍、糖尿病があると1.7倍、高血圧があると1.6倍、10歳高齢になる毎に1.4倍も脳梗塞を起こしやすいことがわかっています。

心室収縮頻度(心室レート)のコントロール

心房細動では心房のあちこちで300/分以上の頻度で収縮がおこり、心室の脈拍は毎分130以上になります。この頻拍が長く続くと正常な心臓でも心不全になります。このため、薬物を使って適切な心拍数まで低下させます。

目標とする心拍数は、安静時では毎分60-90くらいで、日常の軽度な労作で毎分100を超さない程度、軽度から中等度労作時で毎分110~120以下をおよその目安とします。一日中記録する心電図(ホルター心電図)で総心拍数が12万回以下(通常は10万回程度)にするという目標もあります。心不全がある場合には心不全の治療を優先します。

心拍数(心室レート)コントロール薬剤として、ジギタリス(迷走神経緊張作用)は従来からよく使われている薬剤です。ジギタリスだけでは労作時の心拍数抑制は不十分な場合あるいは昼間の活動時に心拍数が増加してしまう場合には交感神経緊張抑制薬であるβ遮断薬が使われます。また、カルシウム拮抗薬の一種であるワソランもよく使用される薬です。

心房細動の再発予防はどうのうようにしますか?

まず、第一にすべきは心房細動発作の原因や誘発因子を取り除くことです。生活習慣の是正が大事なことです。酒、タバコを控える。ダイエットして肥満度を軽減させる。夜更かしを止める。ストレスを遠ざけることなどです。心房細動の再発予防を目的に使用される抗不整脈剤を多種ありますが、それらにお使い方にはチョットした工夫、さじ加減がありますので循環器専門医に相談してください。投薬前に心機能をエコーなどで評価しておく必要があります。抗不整脈剤を選ぶ際に、心機能障害の程度が薬の選択の参考になるからです。

心房細動による脳梗塞の予防対策はどのようにしますか?

動脈塞栓のリスクの高い人には、ワーファリン治療が原則です。 ワーファリンの効果を評価するのは、「PT-INR」検査です。PT-INR目標値は、血栓塞栓の危険性に影響する因子は、年齢(65歳以上)、血栓塞栓の既往の有無、心疾患の有無(弁膜症、虚血性心疾患、心不全、左心室肥大など)、高血圧の有無、糖尿病の有無などです。 これらの、リスクを一つでも有する人はワーファリンを必ず服用するようお勧めしています。心房細動の方は、来院時ごとに採血しPT-INRをチェックするようにします。